| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


シンポジウム S09-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

2.トキをシンボルとした環境保全型農法の取組み効果 

西川 潮(新潟大・朱鷺自然再生学研究セ)

赤沼宏美,遠藤千尋,大脇淳,金子洋平,小林頼太,櫻井美仁,田中里奈,中田誠(新潟大・朱鷺自然再生学研究セ),齋藤亮司(サンワコン)

水田は農作物の栽培の場として機能するだけでなく,かつて氾濫原湿地を利用していたさまざまな野生生物に棲み場や餌場を提供する。近年 水田は,その代替湿地としての重要性が見直され,農業生産と生物多様性の再生の両立を念頭に置いた環境保全型農法の取組みが各地で進められている。

佐渡市では,2008年度より開始されたトキの再導入事業に合わせて,水稲農業に水田の生物多様性再生を軸とした「朱鷺と暮らす郷づくり」認証制度が導入された。「朱鷺と暮らす郷」米の主な認証基準は,従来と比べ農薬・化学肥料を5割以上低減したうえで,1)ふゆみずたんぼ(冬期湛水),2)江(水田脇の深溝),3)魚道,4)ビオトープ(水田に隣接した非耕作湛水田)といった「生きものを育む農法」のいずれかに取組むことである。2012年現在,全島の20%以上の水田で「朱鷺と暮らす郷」米の栽培が進められている。本発表では,野外調査を通じて,佐渡島における現行の環境保全型農法の取組み効果を検証し,操作実験を通じて新たな環境保全型農法について検討した結果について報告する。

全島と平野部における400水田に及ぶ野外調査の結果,無農薬・無化学肥料栽培(無々栽培)は生物多様性向上に効果的であるものの,一定量以上に農薬・化学肥料を低減してもその効果は明瞭ではないことが示唆された。また,「生きものを育む農法」のなかで最も取組み面積が大きいふゆみずたんぼは生物多様性向上効果が小さいのに対し,二番目に取組み面積の大きい江の設置は夏冬ともに水棲動物の種多様性向上に効果的であることが示された。最後に,畔草管理や水管理に基づき,コウチュウ類やクモ類といった水田の指標生物の生息個体数を増加させる取組みについて紹介する。


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