| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
シンポジウム S09-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
冬期湛水は多様な目的で実施されているが、宮城県の蕪栗沼、伊豆沼周辺では、代替湿地(ねぐら利用)創出によるハクチョウやマガンの保全、水田内の水生生物保全、安心な米の生産を主目的として冬期湛水・有機水稲栽培が行われている。蕪栗沼周辺(2003年開始)の“ふゆみずたんぼ米”は、生きものブランド米や地域ブランド清酒の原料として、高い評価を得ている。本報告では、冬期湛水・水稲有機栽培を持続性の高い生産技術とするための基礎資料を得るために、その特徴と課題を明らかにした。冬期湛水・有機栽培の玄米収量は、隣接圃場に設置した慣行栽培(地域慣行の農薬、化学肥料などの管理)に比べて、85%(蕪栗沼周辺水田、2005〜2006年)、81%(伊豆沼周辺水田、2006〜2008年)、84%(東北大学附属フィールドセンター、2008〜2010年)に低下したが、冬期非湛水の有機水田に比べて増加する傾向があった。冬期湛水・有機水田では、長い湛水期間と易分解性有機物(有機質肥料、抑草用の米ぬか)の施用により慣行水田よりも栽培期間中の土壌還元が早期に発達し、土壌リン酸の有効化が早まり、土壌窒素の無機化量が増加した。一方、メタン放出量は増加した。前2者は水稲栽培上有利な特徴であるが、後者の解決は課題である。冬期非湛水の有機水田に比べて冬期湛水水田で雑草発生量が少ない例(伊豆沼周辺)が見られた。しかし、機械除草等を行わないと減収要因となり、イヌホタルイの繁茂はカスミカメムシ類による品質低下(斑点米)を助長した。冬期湛水・有機水田では、慣行水田に比べてイトミミズ類が増加し、水生生物の種類と個体数が有意に増加した。冬期湛水・有機栽培の持続性を高めるためには、優れた面(土壌養分有効化量と生物量の増加)を維持しつつ、有機栽培と共通する課題(雑草抑制、メタン放出抑制)を解決する必要がある。