| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
シンポジウム S09-4 (Lecture in Symposium/Workshop)
近年,北陸地方では水稲の不耕起V溝直播栽培の普及が進んでいる.直播栽培では乾田への播種後,6月から9月まで湛水して夏期の落水処理(中干し)を行わない.また,慣行栽培で用いられる苗箱施用殺虫剤を使用しない.このような水管理や農薬施用方式の違いは,水田の生物相や多様性に影響を及ぼすものと考えられる.そこで講演者らは2010年から2年間,石川県珠洲市の直播栽培4圃場と慣行栽培4圃場において調査を行い,栽培様式の違いが水生昆虫,稲株上の節足動物,および水田雑草におよぼす影響を調べた.本講演では,主に水生コウチュウ・カメムシ目について結果を報告する.
直播水田では水生コウチュウ・カメムシの密度が高く,コウチュウの種数が多かった.また,希少種のマルガタゲンゴロウ,ゲンゴロウ,クロゲンゴロウ,ミゾナシミズムシが出現した.指標種分析により,直播水田ではチビゲンゴロウ等7種が,慣行水田ではゴマフガムシ等2種が指標種として抽出された.直播水田の指標種7種は,慣行水田で中干しが行われる7−8月に幼虫の個体数がピークに達したことから,繁殖期を通じて水田が湛水されていることが,直播水田において密度が高い原因の一つと考えられた.また,直播水田の指標種は慣行水田においても優占しており,これらが慣行水田での総個体数に占める割合はコウチュウで70%,カメムシで77%であった.
以上の結果は,省力型農法として開発された直播農法が,水生昆虫の重要な生息・繁殖場所として機能していることを示す.希少な水生昆虫類が生息する能登において,直播栽培の普及は地域レベルの種多様性やアバンダンスを高めうる.ただし,農法の違いに対する反応が種ごとに異なった点を考慮すると,直播水田だけではなく,直播と慣行の両栽培法が混在することが重要といえる.