| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
シンポジウム S10-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
河川棲水生昆虫類では、水温や流速、河床の礫サイズなどといった微環境に応じた棲み場所の細分化が比較的顕著に認められる。このため、「棲み分け理論」のよいモデルであるとして扱われてきた。とくに本邦の水生昆虫相は、東アジア・モンスーン地域の豊かな水環境をベースとした高い種多様性に加え、大きな海洋プレートが衝合することでの激しい地殻変動により複雑な地形が発達・変遷してきたような立地面にからも、より細かなニッチ分割やそれに伴う適応放散が生じてきたものと考えられる。
中でも、ヒラタカゲロウ科 Heptageniidae 種群では、上-下流方向における(標高傾度に応じた)流程分布、また、川岸から流心に向かう(流速に応じた)ニッチ分割などが顕著に認められ、極めて短い流程内においてさえも多数の近縁種群が棲息するようなことがしばしば認められる。このヒラタカゲロウ類を対象に、千曲川水系(5河川:千曲川、犀川、高瀬川、梓川、奈良井川)の広域的流程における個体群構造を明らかにするとともに、その遺伝的構造との関連性を比較検討した。
四季を通じて実施した定量調査による種群リストを基にしたクラスター解析やNMDS解析の結果、5河川ともに、ヒラタカゲロウ類の流程分布の傾向はよく似た傾向を示した。また、ヒラタカゲロウ Epeorus 属内の近縁2種であり、源・上流域のスペシャリスト種(キイロヒラタカゲロウ E. aesculus)と上・中流域に広域分布するジェネラリスト種(マツムラヒラタカゲロウ E. l-nigrus)間での遺伝的構造の比較を行ったところ、それぞれが有する個体群構造の特徴によく合致した遺伝的構造をもつことが明らかとなった。