| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


シンポジウム S10-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

オサムシにおける高度勾配上の適応と種分化

曽田貞滋・土屋雄三・小沼順二(京大・理)

日本列島で著しい種分化を遂げたオオオサムシ亜属の特徴として,体サイズの変異が大きく,同所的に生息する種間では明確な体サイズ差があることが挙げられる.この体サイズ差は,機械的な生殖隔離をもたらしている.一方,本亜属の種内の体サイズ変異は,生息地の緯度,高度,年平均気温との相関を示しており,異なる季節環境への適応が体サイズを規定する主要因であることが示唆されている.四国に分布するシコクオサムシは,海岸付近から1900mの山岳地帯まで分布し,4つの亜種に分類され,亜種間の体サイズの変異が著しい.4亜種のうち,四国西南部の低所から標高1000mを越える高所まで分布する亜種トサオサムシは,山地の上部を中心に標高数百mから1900mまで分布する他の3亜種よりも大きい体サイズを持つ.亜種間の分布境界は,河川や急峻な地形等の地理的障壁に対応している.相対的に低標高に生息する亜種トサオサムシと高標高に生息する亜種イシヅチオサムシの生息環境の違い,生活史の違いを調査し,適応的分化の生態的要因を考察した.同じ亜種の組み合わせにおいて,実験室内の温度依存的幼虫発育の比較,亜種間交雑による体サイズの遺伝に関する実験の結果から,体サイズの可塑性と亜種間の遺伝的差違に関する考察を行った.オオオサムシ亜属の交尾においては,雌雄の体サイズの適合が重要である.室内実験によって,雌雄の体サイズ差と交尾成功率の関係を明らかにして,集団間の体サイズ分化が生殖隔離に及ぼす効果を予測した.連続的な高度勾配上における体サイズの分化によって,種分化が生じる可能性に関して考察した.理論的に,一様な高度勾配の上での連続的な体サイズ分化から種分化が起こる可能性は低いと予測されるが,高度勾配上に分散障壁となる急峻な地形が存在することによって,低所・高所の集団間の遺伝的分化が促進され,種分化につながる可能性が示唆される.


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