| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


シンポジウム S11-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

シロアリの女王フェロモンとコロニーの維持機構

山本結花(京大院・農・昆虫生態)

アリやハチ、シロアリのような社会性昆虫は、驚くほど組織的に振る舞うことで、地球上で最も繁栄した生物となっている。 その社会を支えるのは、フェロモンをはじめとした様々な化学物質である。例えば、シロアリの巣内では採餌、防衛、巣仲間認識、カースト分化といった様々な場面でフェロモンが機能している。

その中でも、高度に社会性を発達させた真社会性昆虫では、繁殖と労働の分業が発達しており、現役の女王はフェロモンによって他の雌個体が女王に分化して産卵するのを抑制している。近年、講演者らは、ヤマトシロアリの女王フェロモンの成分が2 -メチル1 -ブタノールとn -ブチルn -ブチレートの2つの揮発性物質であることを特定した。女王フェロモンが特定できたことにより、その機能に関する様々な操作実験が可能となり、それなしでは不可能であった様々な謎解きに道が拓かれた。まず、女王フェロモンと全く同じ揮発性物質が卵からも放出されており、この卵揮発物質はワーカーが卵を育室に運搬・保護する際の定位フェロモンとしても機能していることが示された。また、女王が複数存在している巣の中では、女王フェロモンが女王間の産卵シグナルとして働き、コロニーレベルの卵生産量の調節に重要な役割を果たしていることが明らかになった。さらに、卵保護に必須のワーカー唾液腺リゾチーム量の生産調整や抗菌作用など、女王フェロモンはシロアリの巣内で多面的な機能を果たしている。

本講演では、シロアリの女王フェロモンの特定以降、講演者らの研究グループによって次々に解き明かされた女王フェロモンの機能とその進化プロセスについて総括したい。女王フェロモンはシロアリの巣社会が健全に存続する上で不可欠な役割を担っている。社会性昆虫の巣社会の維持に女王フェロモンがどのように関わっているのか考察する。


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