| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
シンポジウム S13-2 (Lecture in Symposium/Workshop)
南極大陸の露岩域にある大部分の湖沼はおよそ1万年前に創出されたものである。これらには氷により物理的に地表がはぎ取られた無生物状態からの一次遷移過程にある生物現象が繰り広げられている。その中に生を営むモノに問えば、「いかに生物が無生物状態の生息可能環境にたどり着き、定着し、生活をはじめ、そして生態系を構築していくのか?」また、「生物活動、エネルギー獲得と物質循環などがどのように生息環境を変質させ、たとえば、湖沼遷移を導いてゆくのか?」といった問題の答えを教えてくれる可能性を秘めたフィールドといえる。日本の南極観測の拠点である昭和基地近傍にあるいくつかの露岩域の一つには、およそ20㎞四方の比較的狭いエリアに50以上の湖沼がある。これらはほぼ同一の気候環境や経過時間をもつにもかかわらず、湖内に築き上げられている群集には普遍的な共通性と湖ごとに異なる多様性が認められる。普遍性にはそのエリアの湖沼で生き続けるための生物として必須の能力、多様性には問題解決に生物が見つけたいくつかの方策や湖固有の環境特性への適応現象が見出されるはず、その先には?
湖という扱いやすい閉鎖性と独立性の高い生態系の特質を生かし、相互比較を通じたこうした研究ができるフィールドが南極湖沼である、と信じて研究してみるのは、いかがだろうか?
本講演ではその一例として、希薄な栄養と有機物、周年を通じた低温や紫外線強度の強い日射ゆえ、氷雪融解水をたたえた湖にはプランクトン藻類がほとんど存在せず、湖水は純水と匹敵する透明さを示す。それでも集水域から融け水とともに入り込むシルトや溶存物質で、湖水はその湖ごとに光吸収・透過特性の違いがある。ベントス藻類の生育する湖底付近に到達する光エネルギー組成と光吸収特性の多様性を生物応答の必然性という観点から考察してみる。