| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
シンポジウム S13-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
低温、貧栄養、暗黒の冬期、強光をあびる夏期という極限的環境にさらされる南極大陸の淡水湖では、湖底にシアノバクテリアと緑藻からなる特異な底生光合成生物マット群集(藻類マット)が形成される。藻類マット表面のバイオフィルムはマットからの栄養塩類の流出を防ぎ、オレンジ色を呈する藻類マットの表層には光防御物質が集中し、その下の緑色層で活発な光合成が行われている。このように、各層が分化した生態機能を果たす藻類マットの層構造は、微生物によるニッチ構築物とみなすことができる。特に、強光にさらされる表層の微生物が光防御に高い投資を行うという「利他行動」により、下層に生息する微生物の活発な光合成が可能になっている。我々は、このような群集構造が、光資源を巡る微生物間の競争の結果として形成されると考え、その形成過程と平衡状態を解析するための数理モデルを構築した。
微生物のそれぞれの種がもつ、波長特異的な防御色素の吸収スペクトルと光合成色素の光吸収スペクトルを明示的に取り入れて、マット上層の群集の光適応、それによって決まる下層群集の光環境、そのもとでの下層群集の適応というように、上層から下層にカスケード的に群集形成が行われる仕組みを数理モデルを用いて解析した。微生物の光合成速度が、入射光スペクトル、藻類のもつ防御色素の吸収スペクトルと光合成色素の吸収スペクトルによってどう決まるかを、光合成システムPS2がclosed、open、damagedの3状態を遷移するとしてモデル化し、捕集した光子数と、暴露エネルギーの関数として純光合成速度および微生物の増殖率を定義した。これらの仮定のもとで、防御・光合成の吸収スペクトルそれぞれを自由に選べるときの進化的安定な群集について解析し、南極淡水湖底の藻類マット構造と比較する。