| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
企画集会 T01-2 (Lecture in Symposium/Workshop)
およそ1年の周期をもつ内因性の生物リズムである概年リズムは、1957年に冬眠をする哺乳類で発見され、その後渡り鳥などさまざまな生物で報告されてきた。無脊椎動物では、全世界の温帯地域に生息するヒメマルカツオブシムシという昆虫の蛹化に概年リズムが見られることが1958年に示された。演者らは、1996年以降、この虫の概年リズムを研究してきた。その結果、この虫の蛹化のリズムは、自律振動性、周期の温度補償性、環境に対する同調性という生物リズムの代表的な3つの性質のすべてを示した。さらに、短日においた幼虫を短期間だけ長日にさらすことによって得られた位相反応曲線から、この概年リズムは概日リズムと位相反応はよく似ているがそれよりずっと長い周期をもつ振動体(概年時計)によってもたらされることが明らかになった。そして、この概年リズムによって季節変化に対応して適切な季節に蛹化していることも示したが、「他の多くの昆虫が光周性によって季節変化に対応しているのに、なぜこの種は概年リズムを使っているのか」は明らかではない。そこで、この謎を解明する手始めとして、高鍋(宮崎県)、大阪、仙台、札幌という地理的に離れた個体群の概年リズムの性質を実験室で調べた。その結果、概年リズムを同調させるために長日と短日を区別する臨界日長に地理的変異が見られたが、一般の光周性の臨界日長に見られる地理的変異より小さかった。さらに、これら4つの個体群を大阪の自然条件で飼育したところ、いずれもまったく同じ時期に蛹化した。これらの結果から、本種が幅広い地域に分布を広げた背景に、異なる気候条件でも概年リズムによって適切な季節に蛹化できる性質があると考えている。