| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


企画集会 T02-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

動物プランクトン情報を用いた湖沼生物群集の復元

*牧野渡, 大槻朝, 石田聖二,占部城太郎(東北大・生命)

湖沼の動物プランクトンは、植物プランクトンによる基礎生産を魚類等の高次栄養段階へ伝達する機能を持つ。大型の動物プランクトンが卓越する湖沼ほど生態効率が高く透明度も高い傾向があるため、動物プランクトンの群集構造は湖の環境状態の有効な代替指標となり、そのため古生態学的解析にも古くから用いられてきた。ただし既存の方法では、湖底堆積物中の動物プランクトン遺骸を定量的に解析して過去の群集組成を復元するため、遺骸が残らない生物は取り扱えない、堆積物中に残った場合でも外部形態による同定が不可能であれば利用できない、遺伝的多様性の解析ができない、ことが方法論的問題点として残っている。そこで本プロジェクトでは、動物プランクトン群集組成の高度化復元のために、動物プランクトンが産出する休眠卵を積極的に利用することを提唱する。例えば、堆積物中に遺骸は残らないが、実際の湖では屢々卓越するヒゲナガケンミジンコ類の休眠卵は、外部形態では種判別できないため利用されてこなかったが、DNAバーコードを応用すれば種判別が可能となるだろう。また遺骸の定量解析が可能なミジンコ類についても、休眠卵の遺伝子を解析すれば、種内の遺伝的多様性の経年変化や、遺骸の外形では困難であった種判別も可能となるであろう。本講演では、過去群集復元にかかるこれら分子生態学的方法を開発し、実際の湖沼堆積物解析に応用した結果を紹介する。具体的には、人為影響の少ない山岳湖沼(羅臼湖、ニセコ大沼、ミクリガ池)では、ミジンコ類とヒゲナガケンミジンコ類の双方で、過去100年間の種組成に変化は見られないこと、逆に人為影響のより大きな平地湖沼(阿寒湖、渡島大沼、木崎湖)では、ミジンコ類とヒゲナガケンミジンコ類の双方で、出現種や種内系統が交代していること、を立証する。


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