| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
企画集会 T02-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
近年の人間活動の高まりにより、湖沼生態系は様々な点で変容してきた。しかし、定期的な観測が実施されている湖沼は限られ、生態系がどのように変容してきたのか、保全目標の設定に欠かせない人為攪乱に対する影響評価は多くの湖沼でなされていない。そこで本研究では、モニタリング手法の一つとして過去の情報が得られない湖沼でも、湖底堆積物中の色素やプランクトンの遺骸を分析し、プランクトン変動を復元することで、人為的影響を受けやすい平地湖沼(北海道阿寒湖・渡島大沼)と山岳湖沼のような自然豊かな生態系(北海道ニセコ大沼・羅臼湖・富山県ミクリガ池)で過去100年間にどのような変化が生じたのかを明らかにした事例を紹介する。さらに、従来の分析手法では情報が得られなかった藻類と動物プランクトン間の食う-食われる関係について、クロロフィルの誘導体ステリルクロリンエステル類(SCEs)色素を用いて両者の被食―捕食関係を推定する新たな解析を試みた。
堆積物中の色素や遺骸から藻類とミジンコ類の変動を復元した結果、平地湖沼の阿寒湖では周辺の観光地化が進んだと思われる1950年代に藍藻類や緑藻類が大幅に増加し、富栄養化が進行したことが示唆された。動物プランクトンに関しては、1950年代以前は、大型サイズのDaphniaが豊富にみられたが、それ以降、減少し、逆に小型サイズのBosminaが増加していた。さらに漁獲データから、1950年代にワカサギも大幅に減少していることから、阿寒湖では富栄養化した時期に基礎生産から動物プランクトン、魚類まで生物群集が大きく変化したことが明らかとなった。一方、山岳湖沼のニセコ大沼やミクリガ池では1980年代後半以降、藻類とその稙食者であるミジンコ類が共に増加傾向にあり、辺境地にある自然豊かな湖沼でも大気経由の栄養塩負荷の影響と思われる富栄養化が進行しつつあることが示唆された。