| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
企画集会 T02-5 (Lecture in Symposium/Workshop)
湖沼生態系の変化の原因を探るためには,植生をはじめとする周辺環境の変化を知っておく必要がある。湖底堆積物中に含まれる花粉は,過去の植生の指標として,主に古生態学や古気候学の分野で,数千年〜数万年スケールの長期的な植生変動を解明するために用いられてきた。しかし,とくに日本においては,数年〜数十年スケールの事象を扱う生態学にはほとんど応用されていない。本研究では,湖沼生態系の変化のバックグラウンド情報として,堆積物中の花粉を用い,過去100年間の周辺植生の復元を試みた。
210Pb および137Csによって年代決定された,北海道の4湖沼(羅臼湖,阿寒湖,ニセコ大沼,渡島大沼)ならびに本州中部地方の2湖沼(木崎湖,立山ミクリガ池)の堆積物から花粉を抽出し,同定・計数した。また花粉組成と比較するため,環境省の自然環境GISデータを利用して,各湖沼の周辺植生の組成を計算した。
現在の植生に由来すると考えられる堆積物表層の花粉組成と,植生図から求めた植生の組成は概ねよく対応し,ハイマツ群落に囲まれた羅臼湖,トドマツ・エゾマツ林が多い阿寒湖,ダケカンバ林の多いニセコ大沼,ミズナラ林やカラマツ・スギ植林地が多い渡島大沼,アカマツ・コナラ二次林が多い木崎湖,ハイマツやアオノツガザクラなどの高山植生に覆われたミクリガ池というように,各地点の植生の特徴を反映した花粉組成が得られた。時系列的な変化をみると,平地湖沼である渡島大沼と木崎湖では,堆積物上部でスギ花粉の増加がみとめられた。これは,戦後の拡大造林を反映した変化であると考えられる。一方,平地湖沼のうち阿寒湖とそのほかの山岳湖沼では,過去約100年間の花粉組成や年間花粉堆積量に大きな変化はみとめられず,周辺植生には変化がなかったことが示唆された。