| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
企画集会 T03-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
集団繁殖する海鳥は繁殖地の生態系に対し大きな影響力をもつ。外来ほ乳類による海鳥個体数の激減は、海鳥による重要な生態系機能を喪失させた。近年、多くの海洋島で外来ほ乳類の駆除が行われているが、生態系の正常な機能の回復には、海鳥個体群の回復が不可欠である。
小笠原諸島では約15種の海鳥が繁殖している。海鳥は踏みつけや掘り返しによる物理的撹乱や糞による栄養塩供給によって植生に影響を与えるが、これらの機能の種間差は評価されていない。本研究では、小笠原の主要な繁殖種であるクロアシアホウドリ、オナガミズナギドリ、カツオドリを対象に、植生への影響の種間差を明らかにすることを目的とした。
まず物理的撹乱の影響を評価するため、海鳥繁殖地にエクスクロージャー(EX)を設置し海鳥の物理的影響を排除して、1〜2年経過後の植被率の変化と地上部バイオマスを対照区と比較した。その結果、植被率には大きな違いがみられなかったが、オナガミズナギドリとカツオドリではEXの地上部バイオマスが有意に大きかった。
次に土壌への影響を評価するため、各種の繁殖地及び繁殖地外の土壌硬度、土壌中の有効態リン酸(P)、pHを比較した。その結果、クロアシアホウドリ繁殖地は他に比べ土壌が硬かった。Pはオナガミズナギドリとカツオドリ繁殖地で非常に高い値を示したが、クロアシアホウドリ繁殖地では繁殖地外と有意な差はなかった。オナガミズナギドリ繁殖地の土壌pHは他に比べ有意に低かった。
以上の結果から、海鳥の植生への影響は種により顕著な差があることが示唆された。外来ほ乳類駆除後、海鳥繁殖地の拡大が見られているが、外来ほ乳類による環境改変等により、駆除後に分布拡大した種が攪乱前の繁殖種と異なっている可能性がある。正常な生態系機能の回復には、種間差を考慮し海鳥繁殖集団の分布拡大を管理する必要がある。