| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
企画集会 T03-4 (Lecture in Symposium/Workshop)
海洋島における外来ほ乳類駆除後の生態系機能の回復の程度は、生態系内の物質循環のプロセスと強く関係する。これらの関係は、駆除前の植生の退行、駆除後の海鳥の営巣の回復、駆除後の植生タイプ、地形などの複数の生物的、非生物的要因を介して生じる可能性がある。さらに、この物質循環のプロセスと生物的、非生物的要因との関係には、単純な一対一の関係だけでなく、間接的相互作用を含む複雑な関係も含まれる可能性がある。
これらの可能性を検証するために、外来ほ乳類であるヤギの駆除から約10年経過した小笠原諸島の草地生態系において、植生の地上部バイオマス-土壌栄養元素量(炭素、窒素、リン)-生物的、非生物的要因(ヤギ駆除前の植生の退行の有無、海鳥の営巣の有無、ヤギ駆除後の植生タイプ、地形)の関係を間接的な相互作用も含めて評価した。
地上部バイオマスは、土壌栄養元素量と正の相関を示した。また、ヤギ駆除前に裸地化した場所では、裸地化しなかった場所よりも地上部バイオマス、土壌栄養元素量が小さかった。土壌栄養塩量は、海鳥の営巣が見られた場所、駆除後にコウライシバが優占する植生においてが高かった。尾根では、斜面や谷と比較して土壌中のリンの含有量が高かった。海鳥の営巣は、コウライシバ植生、尾根に偏っていた。
パス解析の結果、ヤギ駆除前の植生の退行の有無は、地上部バイオマス、土壌炭素、窒素量に直接的、間接的に影響した。また、土壌栄養元素量に対して、海鳥の営巣の有無が直接的に、地形、駆除後の植生タイプが海鳥の営巣を介して間接的に影響した。
以上の結果から、ヤギ駆除後の海洋島の草地生態系の一次生産や栄養元素の循環は、ヤギ駆除前後のイベントや地形との間に存在する複雑な直接的、間接的相互作用と関係していることが示唆された。