| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
企画集会 T03-5 (Lecture in Symposium/Workshop)
多くの海洋島の例に洩れず、小笠原諸島でも外来生物による自然生態系の悪化は大きな問題となっている。そのため小笠原諸島ではヤギ、ネズミをはじめとする外来生物の駆除事業が行われている。しかし外来生物の駆除自体が現在の生態系に対する撹乱に他ならず、生態系内の物質循環のプロセスを介して在来生物に悪影響を与える可能性がある。もし、外来生物駆除後の生態系変化が事前に予測できれば、在来生物になるべく悪影響を与えないような駆除シナリオを提示することが可能となる。そこで本研究では、小笠原諸島の生態系の物質循環を再現する数理モデルを作成し、外来生物駆除後の生態系変化を解析した。このモデルには生態系を構成する生物と物質循環に関する主要なプロセス(競争や捕食―被食などの生物間相互作用、糞、リター、遺骸などのデトリタスの風化、分解の過程など)を可能な限り導入した。このモデルを用いていくつかの島を想定したシミュレーションを行ったところ、実際の植生の面積比をよく再現できた。そしてこのモデルを用いて、ある島からヤギとネズミを駆除するシミュレーションを行い、駆除後の生態系変化を解析した。その結果ヤギとネズミを同時に駆除した方が植生や動物のバイオマスの回復効果が大きいことが明らかとなった。しかしその場合、ほぼ全島森林化するか草原化するか、どちらか両極端の結果になることが多く、その後の生態系変化が予測しにくいことが示唆された。この結果は、外来生物は駆除すればそれで終わりではなく、その後もモニタリングを継続し、順応的な管理を行っていくことが必要であることを示している。