| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
企画集会 T04-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
現在、日本全国でシカやイノシシといった大型哺乳類が個体数を増やし分布拡大している。これらの野生動物は森林植生や農作物に深刻な被害を引き起こすため、その個体数に影響を与える環境要因が盛んに調査されてきた。「耕作放棄地」はその一つとして報告され、いくつかの大型哺乳類では耕作放棄地を頻繁に利用し、個体数指標(発生被害数や目撃数)と耕作放棄地率が正に相関することが知られている。これは、耕作放棄地が大型哺乳類にとって好適な餌場や休憩場所となるためと考えられ、離農による耕作放棄の増加が大型哺乳類の増加につながっているのではないかと推測されている。一方で、大型哺乳類による農業被害を受けた農家が耕作をやめてしまうという事例も多く、大型哺乳類の増加が逆に耕作放棄の増加につながっている可能性も否定できない。「耕作放棄地」が大型哺乳類の個体数を増加させているのか、それとも大型哺乳類の個体数が増加した結果なのか。本研究では、千葉県房総半島のイノシシを用いて、この双方向の影響について分離できるように解析し検証する。
状態空間モデルを用いた解析結果から、耕作放棄地は個体数だけでなく、イノシシの個体群成長率とも正の相関傾向があることが示された。これは、個体数指標と耕作放棄地の正の相関に対するこれまでの説明を根拠づけるものである。また、一方でイノシシの目撃率が高いところほど有意に獣害による耕作放棄が多くなるということもアンケート調査の解析から明らかになった。以上のことから、イノシシの増加が耕作放棄を引き起こし、耕作放棄の増加がイノシシの増加を引き起こすという悪循環(正のフィードバック)が存在する可能性が科学的に初めて裏付けられた。