| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


企画集会 T06-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

間伐強度の異なるスギ人工林土壌におけるO層の変化とA層上部の特性  

*榎並麻衣・菅野均志・清和研二・高橋正・南條正巳 (東北大 院農)

近年、針葉樹人工林において種多様性の回復を目的とした森林管理が推進されている。間伐によるスギ人工林への広葉樹の導入は針広混交林化を進める手段の一つであるが、適切な間伐強度や、種多様性回復に伴う生態系機能への効果の検証が求められている。本研究では、3段階の間伐強度(無間伐、弱度間伐、強度間伐)のスギ人工林において、間伐から8年後のO層とA層上部の土壌、土壌浸透水の採取および化学分析を行い、土壌特性の変化を検討した。

スギ人工林土壌への間伐の影響はO層で顕著に見られた。間伐強度の増加に伴いO層に含まれるスギ葉の減少および広葉樹と草本の増加、分解が進んで形態が判別し難い画分の割合の増加、そしてCa等の元素濃度の上昇傾向がみられた。O層直下から採取した浸透水の多くがA層上部15 cmを通過した土壌浸透水よりも量および成分濃度が倍以上であり、間伐強度の増加と水溶性陽イオンおよび溶存有機態炭素の増加が対応する傾向であったことから間伐の影響を強く受けたO層からの溶出成分の大部分がA層上部で付加もしくは消費されることが明らかになった。しかし、A層上部の土壌pHの上昇傾向が僅かであったことから、土壌pH上昇の要因の一つである交換性陽イオン存在量の増加や他の土壌特性への間伐の影響ははっきりとしなかった。本試験地において間伐強度の増加によるスギ落葉量の減少と林内環境の急激な変化は、面的にはO層組成の変化と、広葉樹葉や草本だけではなく分解されにくいスギ葉の分解を促し、A層上部の土壌pHの僅かな上昇を引き起こしたと解釈できる。一方、各分析値は間伐強度が増すほど処理内のばらつきが大きい傾向であったことは、間伐が林内環境の不均一さ(局地性)を増すことを示唆する。この時期に変異に富む土壌環境が創出される効果について、今後は多様な樹種の共存を促す視点からの評価も必要である。


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