| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


企画集会 T08-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

造礁サンゴの分子生態学的アプローチ:植物研究との比較

井口 亮(琉大・熱生研)

サンゴや植物のような固着性生物は、一度定着した生息環境において、様々な環境の変化に曝されつつも、巧みにその生活史を維持しながら、集団を形成・維持している。これまで、サンゴ、植物において、自然選択に対して中立な分子マーカーを用いた遺伝的多型解析により、集団構造、遺伝子流動、遺伝的多様性パターンを把握し、その集団の維持・形成機構を探る研究は多く行われている。近年では、次世代シーケンサーによる塩基配列取得技術の急速な発展に伴い、様々な遺伝子情報が容易に利用できる状況になり、ある環境への適応に関わる機能遺伝子の同定とその時空間動態の把握も、主流になりつつある。申請者らは、琉球列島沿岸のサンゴ礁海域に普通に見られるコユビミドリイシを対象に、琉球列島全域における遺伝子流動パターンと、体内に共生する褐虫藻の遺伝子型分布パターンを調べた。その結果、コユビミドリイシは数百kmに渡って、高い遺伝子流動を維持していること、コユビミドリイシに共生する褐虫藻の遺伝子型はクレードCのみが見られ、他海域で報告されているような、ストレス耐性がより高いクレードDへの変化は生じにくい可能性が示唆された。一方で、コユビミドリイシの同所的集団を用いた共通環境実験では、ホストであるサンゴ側の遺伝子型の違いによって、成長及びストレス耐性が大きく異なることが示された。この結果は、中立マーカーでは捉えられない、表現型に関連した遺伝的多型が集団内で維持されていることを示唆する。本講演では、サンゴの分子生態学的アプローチによる代表的な研究例を、講演者らの研究成果も交えながら取り上げ、植物の同アプローチによる研究例と比較しながら、両者の類似点・相違点を踏まえて、固着性生物における環境適応パターンについて議論したい。


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