| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


企画集会 T08-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

サンゴと植物:似ているが、群集と個体群の特性は大きく違う

酒井一彦(琉大・熱生研)

ここでは、サンゴと植物の個体群および群集レベルでの相違点であろう点を挙げることで、議論の材料を提供する。

サンゴに休眠ステージがないことが、植物と個体群動態の差異を生じさせると考えられる。サンゴは典型的なメタ個体群を形成するので、攪乱を受けて個体が大きく減少したサブ個体群が回復するためには、近隣のサブ個体群に成熟した個体が存在し、そこから攪乱を受けた場所に幼生が分散し、加入に成功することが不可欠である。サンゴでは、植物の埋土種子のような休眠ステージにある個体から、個体群が回復することは起こり得ない。サンゴでは、幼生の分散範囲内のサブ個体群が同時に攪乱を受けて成熟個体が大きく減少すれば、メタ個体群のネットワークが機能しなくなる可能性が高い。

熱帯林で、群集動態および生物多様性の維持機構として注目されている中立的な過程は、サンゴ群集では成り立たないという見解がある(Dornelas, 2006, Nature 440:80)。実際に沖縄のサンゴ礁では、波浪による物理的攪乱がない場合は、枝の長い樹枝状種が丈の低い他のサンゴの上に成長し、光を遮り水の循環を低下させることで競争排他して優占となり、決定論的に遷移が進行することが多い。これはサンゴが、石の骨格を塊として持つことが大きく影響していると思われる。しかしこれら種は、成長は速いが幼生による新規加入は少ない。小規模の攪乱が恒常的にある、または大規模攪乱の後には、幼生加入数が多い丈の低い、枝の短いサンゴが多種共存する。これらの種の間では、確率論的な共存が起こっていると思われる。確率論的な過程と決定論的な過程が入れ子的に作用しているのであれば、それはサンゴでは比較的個体サイズが小さく物理的攪乱が全個体に大きく作用しうることと、個体の生存期間が比較的短いことによるものと思われる。


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