| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
企画集会 T10-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
本発表では、生物多様性保全にかかる合意形成という課題の中でも、とりわけ保全に必要な資金の確保とそのための費用負担配分に焦点をあて、そこでの生態学の役割について議論する。
環境保全費用の負担については、応責負担・応因負担・応益負担・応能負担といった原則が存在するが、とりわけ自然保全にかかる費用負担については、準拠すべき原則が確立しておらず、どのように費用負担を配分するかはその時々の状況によって決定される。生物多様性や生態系サービスは公共財的な性質を有することから、これまでその保全にかかる費用は主に公的負担によってまかなわれてきた。しかし公的負担には、受益と費用負担の関係性の曖昧さ、政府財政の悪化による予算確保の危うさといった問題が存在する。公的負担のみならず、市場メカニズムを用いて保全資金を獲得する経済的手段も活用されてきたが (例えば農産物の認証制度やエコ・ツーリズムなど)、現状としては規模が十分でない。
こういった状況の中で、今後、必要となる保全資金の動員を活発化させるためには、まず保全に必要なコストを合理的に算出し、費用負担に対する社会的合意を促進していくことが重要である。さらに、生物多様性や生態系サービスの経済的価値を評価して、その効果を提示することが試みられてきた。近年では、環境経済学の手法である仮想評価法(CVM)を用いて、実際の保全活動の評価に活用された事例も増えてきている。しかし、不確実性が伴う生物多様性保全の保全資金の動員根拠を議論する際には、コスト算出、経済的価値評価において、生態学的知見が十分に繁栄された手法開発が必要である。また、限られた資金を効果的に活用するためには、優先して保全すべき重要地域を明らかにしていくことが求められ、その基準化も検討されるべきである。