| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


企画集会 T11-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

蒲生干潟の20年:底生動物群集の長期経年変動と津波による影響評価

*金谷 弦 (国環研), 鈴木孝男 (東北大・生命)

津波は、沿岸生態系を大規模かつ広域的に攪乱する。東日本大震災により仙台市沿岸は7mを超える津波に襲われ、七北田川河口に位置する蒲生潟(蒲生干潟)も甚大な攪乱を受けた。震災に伴う物理的攪乱と環境変化は、蒲生潟に生息する底生動物にも大きな影響を及ぼした。

2011年夏の調査で、ヨシ原や海浜植生の流失、さらに軟泥の流失に伴う底質の砂質化が確認され、震災前に確認された79種の底生動物のうち47種が、絶滅または絶滅に近い状態まで減少したことが確認された(金谷ら2012日本ベントス学会誌)。一方、震災前からの優占種である5種の多毛類と2種のヨコエビは、ほとんどが周年繁殖する日和見種であり、新たに生じた裸地干潟に他種に先駆けて加入し急速に個体群を回復していた。

蒲生潟では、90年代から2000年代半ばにかけ、多定点での底生動物調査が毎年行われていた。これらの群集データを用い、「津波による変化」と「津波前20年間の経年変化」を多変量解析により比較した。その結果、潟のベントス群集は1990年代に大きく変化したのち、震災前まで安定して推移し、津波により再び大きく変化した。群集類似度を比較すると、津波による変化よりも90年代の変化の方がより大きかった。90年代の蒲生潟では、七北田川の河道拡幅により塩分が上昇し、優占種の組成が劇的に変化した。一方、震災による塩分変化は小さく、震災前と同様の優占種が速やかに個体群を回復したため、群集構造の変化は比較的小さかった。2012年春には、二枚貝の新規加入が多数確認されるなど、蒲生潟の生物相は震災前の状態へと戻りつつある。

本研究結果は、日和見種が優占する汽水域のベントス群集は攪乱後の回復が比較的早いこと、また、河川改修のような人為的環境改変は、時として巨大津波よりも大きなインパクトを汽水域のベントス群集に及ぼす可能性があることを示唆している。


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