| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


企画集会 T11-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

新しい潮間帯はどうなっているか-広田湾・小友浦を中心に

*松政正俊 (岩手医科大・生物), 木下今日子 (岩手大・三陸復興)

新しい潮間帯は(1)海と陸の間の自然あるいは人工の障壁が津波によって取り除かれること、(2)地盤沈下等により陸域(潮上帯)が潮間帯へと移行することによって生じたと考えられる。これらの影響を明確に区別することは難しいが、三陸沖の大地震による津波の高さは岩手県から宮城県北部のリアス式海岸湾奥で高く、地盤沈下等の下向きの地殻変動も同地域で大きかったことが知られている。この地域では海と陸の境界の変化が特に大きかったと推定される。

岩手県の宮古湾津軽石川河口干潟、山田湾織笠川河口干潟、大槌湾鵜住居川河口干潟、宮城県の追波湾北上川河口干潟および長面浦では、平成23年の大地震・大津波以前にもベントスに関する調査を実施していたが、鵜住居川河口干潟の全域と、北上川河口干潟および長面浦の干潟の一部は津波によって消失した。しかし、それらの地域の陸側には比較的大規模な新たな潮間帯も形成されている。また、岩手県の広田湾・小友浦は干拓地であったが、津波で堤防が破壊され、現在ではその海側が潮間帯となっている。

比較的大規模に新たな潮間帯が形成された地域は津波による被害が大きかったところでもあり、平成23年中には本格的な調査を実施できなかった。しかし、同年10月には、沿岸・河口域のベントスは生息していなかったはずの小友浦でも、ムラサキイガイやマガキといった内湾や汽水域の付着性ベントスが認められている。平成24年には岩手県内の新しい潮間帯において本格的な調査を実施することができ、アサリ、イソシジミ、オオノガイなどの埋在性二枚貝やカワゴカイなどの多毛類も多く生息することが明らかになった。一方、浮遊幼生期をもたない直達発生のホソウミニナは新しい潮間帯では認められていない。本報告では特に小友浦を中心に新しい潮間帯の概要を報告し、大撹乱がもたらす影響を一般化するための一助としたい。


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