| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


企画集会 T12-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

細菌群集の多様性の評価 - マクロ生物の多様性の評価との比較

横川太一(愛媛大・CMES)

自然環境における選択や進化を伴わない「改変された細菌」の自然環境への侵入が及ぼす影響を体系的に理解するためには,まず,現生態系が保持する細菌群集の多様性および生態系機能について観察する必要がある.次に,「改変された細菌」の導入によって起こる細菌群集への影響を評価することが重要である.

環境中の細菌群集の多様性を観察できるようになってきたのは21世紀に入ってからである.この比較的若い「細菌群集の多様性研究」について考え始める際に,マクロ生物の多様性に関する知見を基に理解を深めようとするのだが,その応用がうまくてきていない.応用できない大きな理由は以下の4点である:1)種というマクロ生物での分類が細菌に適用できない,2)マクロ生物と比べ極端に培養が難しい(環境細菌の約99%は未培養),3)環境中の細菌群集の生理状態,代謝様式の測定が容易でない.さらに,4)細菌群集の多様性の規模がマクロ生物を対象とした多様性よりも桁違いに大きい.このような,細菌とマクロ生物との大きなギャップにより,細菌の多様性に関する普遍的な知見の獲得,あるいは評価に繋がるパラメーターの設定ができていない.つまり,現状では,観察を主体とした環境細菌群集の多様性解析によるアプローチは,社会的に信頼されかつ科学的に健全なリスク評価方法を提示できていない.

本講演においては,マクロ生物の多様性評価との相違,マージできること,また理論的解析から得られている知見を紹介し,細菌多様性研究の生態リスク評価への応用の可能性について議論したい.


日本生態学会