| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


企画集会 T12-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

遺伝子組換え作物の生物多様性影響評価の現状と課題

水口亜樹(福井県立大・生物資源)

カルタヘナ議定書を実施するための国内法として、日本にはカルタヘナ法がある。日本で遺伝子組換え生物を使用するには、カルタヘナ法にもとづいて「生物多様性影響評価」を実施する必要がある。その評価方法は、主にファミリアリティ(宿主植物についてその環境下での使用経験がどのくらいあるかという考え方。例えば日本でのイネはファミリアリティが高いと考える。)と実質的同等性(元の宿主植物と遺伝子組換え植物を比べて組換えた形質以外の部分が同じかどうかという考え方。個々の適応形質についての統計学的有意差の有無で判断されることが多い。)の考え方にもとづいている。つまりファミリアリティが高く、実質的に同等であれば悪影響は無いと判断される。これは、米国やカナダなど諸外国で採用されており、国際基準を満たす考え方であった。ところが、ここ数年の組換え技術の進歩に伴い、ファミリアリティの低い作物以外の植物を宿主としたものや、環境ストレス耐性など適応度に関わる形質を高めたものが開発されてきたため、これらの考え方のみでは不十分であることが、多くの研究者によって指摘されている。最近では、外来種の侵入リスク等を評価する際に用いられてきたようなフレームワークの構築が各国でなされており、定式化されつつある。こうしたフレームワークに従うには、悪影響が有るか無いかといったこれまでの二者択一的な判断ではなく、どんな悪影響がどのくらいある可能性があるかといった定量的な評価が必要である。本講演では、上述のような現状について紹介した後、演者が取り組んできた定量的な評価研究の事例を挙げる。遺伝子組換え生物の生態リスク評価研究に取り組む生態学者は日本では少ないので、会場から多くのご意見を頂き、新たなアプローチや考え方を模索したい。


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