| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
企画集会 T13-1 (Lecture in Symposium/Workshop)
種子散布(seed dispersal)とは、種子が親植物から離れ、運ばれ、地表に落下し、そこに定着する過程であり、固着性の植物が移動できる数少ない局面の一つである。種子を保護する果実の多種多様な色、形、大きさは、植物の散布戦略を反映していると考えられ、散布媒体によって、水や風による物理的散布、植物が自力で種子を射出する自動散布、動物に種子を運ばせる動物散布などに大別される。中でも動物散布は、裸子植物と被子植物の多くに共通した特徴であり、あらゆる散布戦略の中でもっとも効率が良い方法だと考えられる。
ある植物個体にとって、ある特定の種子散布者の有効性は、その植物個体の適応度への貢献度と定義することができ、Schupp(1993)の総説において、結実木への訪問頻度、訪問あたりの消費果実数、果実食動物の口や腸内での種子への影響、散布された種子が生き残り繁殖個体へとなる確率、という研究手法の枠組みが提示された。近年、散布者となる動物の行動を詳細に記録する手法の精度が向上したことで、野外で種子が散布されやすい場所や種子散布地そのものを特定することが可能になってきた。さらに分子生態学的手法の発展により、散布された種子や定着した実生の親個体を推定することが可能となってきた。その結果、どの動物が種子散布者として役だっているのかを定量的に評価することが可能になりつつある。
本発表では、まず、近年、明らかになってきたトカゲ、陸ガメなどの爬虫類やミミズ、ナメクジ、カマドウマ、甲虫などの無脊椎動物など‘意外な’動物たちの種子散布者としての生態系機能を明らかにした研究を紹介する。次に古くから研究事例が蓄積されている主に鳥類、哺乳類、アリ類などに散布される植物を対象として、動物による種子散布の有効性を評価した最新の研究成果について紹介する。