| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


企画集会 T13-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

分散を促す繁殖行動と分散によって促される繁殖行動

廣田忠雄(山形大・理)

すべての生物種は何らかの形で分散する。しかし、分散の形式や距離・時期には、種内・種間に大きな変異がある。分散には様々なコストがかかる一方、分散によって回避できるリスクも複数ある。これらのコストと利益のバランスの変異が、様々な分散タイプを生じていると考えられる。本講演では、代表的な要因として繁殖行動を例に、分散の進化に与える影響と、分散形態から受ける影響を考察する。

繁殖行動が分散の種内変異に影響する例に、モンシロチョウの性特異的な分散がある。モンシロチョウのオスは生まれたパッチの周辺に留まるが、メスは交尾後数kmにわたって分散する。性特異的な分散を説明する理論は、近親交配の回避などを考慮したものが主流だったが、メスが分散前に必ず交尾するモンシロチョウにはこれが当てはまらない。そこで新たなモデルを構築し、分散前交尾と環境変動が性特異的な分散を促すことを示した。

冬季の繁殖様式が、分散の種間変異を生じた例として、ナワヨツボシオオアリ(以下ナワヨツ)とヤマヨツボシオオアリ(以下ヤマヨツ)がある。ナワヨツは日本の南部、ヤマヨツは北部に側所的に分布している。ナワヨツは新女王が結婚飛行を行い、生まれたコロニーから長距離分散するが、ヤマヨツは新女王がコロニーに留まるため巣移住を通じて短距離しか分散しない。室内実験を通じ、両種ともワーカーと共存することで女王の越冬生存率が高まることを示し、寒冷環境で越冬しなければならないヤマヨツで新女王の非分散が進化した可能性を示した。

また分散形態によって、繁殖戦略が影響を受けた例としてヒラタシデムシ亜科の触角噛み行動を紹介する。本分類群では、腐肉食から土壌動物食への進化に応じて、飛翔種から非飛翔種が進化したと考えられている。この分類群では、繁殖行動にも大きな変異があり、特に触角噛み行動には、飛翔する祖先種から、飛翔しない派生種まで連続的な変化が見られる。


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