| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


企画集会 T14-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

トビムシからみたキノコ

中森泰三(横浜国立大学)

人々の視覚や味覚を楽しませてくれるキノコ。その多様な形質が、キノコを摂食する哺乳類や節足動物などの野生動物に与える影響についてはあまり知られていない。キノコ食動物は多岐にわたり、キノコ形質の影響は動物群の性質によって異なると考えられる。キノコ食動物の中でも小型なトビムシは、キノコの二次代謝物組成といった形質だけでなく、キノコ各部位の形質や顕微鏡的な形質にも影響を受けると考えられ、キノコ形質の生態意義を探るうえで興味深い生物群である。しかしながら、キノコ食トビムシの生態についてはほとんど研究されてこなかった。

本研究では野外調査により、トビムシの種により野外で摂食するキノコの種や部位が異なることを明らかにした。また、室内外の観察により、数種のキノコにはトビムシに対する致死作用があり、その影響はトビムシの種によって異なることがわかった。たとえば、ある種のカビ食トビムシは、キノコ毒として知られるα-アマニチンとイボテン酸(一部のテングタケ属菌などに含まれる)に対して感受性であるのに対し、ある種のキノコ食トビムシはそれらの化合物に対し耐性を持つ。一方、ヒトには食用とされるスギエダタケにおいては、キノコ食性の種であってもトビムシは分泌性の微細構造物に触れると死んでしまう。ところが、トビムシの中にはそのようなスギエダタケを好んで摂食する種もあり、摂食様式の違いがスギエダタケ上での生死を分ける要因であることが示唆された。

ここでは、これらの研究成果をもとに、トビムシの視点からキノコの形質の生態意義について議論する。また、トビムシにおけるキノコ毒耐性機構の解明に向けた網羅的遺伝子発現解析についても紹介する。


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