| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


企画集会 T14-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

菌類を利用する植物、菌類に擬態する植物 送粉を達成するための特殊な方策

*末次健司, 加藤真 (京大・院・人環)

送粉者と被子植物とは、共に多様化したことが示唆されているが、送粉様式の多様性に関する情報は著しく不足しているのが現状である。植物の中には特殊な匂いを発し、一般には訪花性と考えられない昆虫を送粉者として利用しているものもいる。そのような植物が利用する昆虫の一つが、菌類の放出する匂いに引き寄せられる者たちである。

例えば、酵母が発する発酵臭は、ワイン、日本酒などの匂いの主要な構成要素であり、我々を魅了するが、その匂いは、人間だけでなく昆虫に対しても大変魅力的である。そのため、発酵臭に擬態することで、採餌や産卵に訪れる昆虫を騙して送粉を達成する植物が存在する。また花蜜中には様々な酵母が存在するため、酵母自身が発する発酵臭が送粉効率を高めている可能性がある。この仮説を検証するため、鱗片葉に大量の花蜜を貯めることができ、その花蜜から人間にも感知できる発酵臭を生じることがある、ヤッコソウの送粉様式の調査を行った。その結果、ヤッコソウには主に樹液に訪れる昆虫が訪れること、ヤッコソウの花蜜中には特異的な酵母が存在していることが明らかになり、酵母の存在が送粉効率を高めている可能性が示唆された。

またキノコ子実体の放出する匂いも多くの菌食性昆虫を引き寄せる。ヤツシロラン属の植物は、このようなキノコ臭に擬態することで、ショウジョウバエに送粉を託している。キノコ子実体の除去・付加実験の結果、クロヤツシロランの繁殖成功は、キノコの存在下で、有意に上昇することが明らかになった。これはキノコの存在が、周辺により多くの送粉者を呼び寄せる効果を持つ可能性を示唆している。本研究は、花以外の資源に擬態する植物が、近傍にモデルがあることで、繁殖成功度が高まることを示した初めての研究である。


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