| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


企画集会 T15-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

外来雑草の農地内外の総合的管理ー被害拡大阻止に向けた課題ー

浅井元朗(農研機構・中央農研)

外来雑草による作物生産への被害が拡大している。帰化アサガオ類(Ipomoea spp.),アレチウリ(Sicyos angulatus)などが夏作物で,ネズミムギ(イタリアンライグラス,Lolium multiflorum)などが冬作物で雑草害を引き起こしている。これら草種の移入は,主に1960年代以降続く輸入穀物への非意図的導入ならびに緑化資材が原因と考えられ,拡散の原因の一つは里地における管理圧の低下である。農地内での問題の背景には,農作業の省力(粗放)化と畑作物における除草剤選択肢不足がある。一方,こうした雑草は休耕地,畦畔,水路際など農地周辺の里地環境に定着し,それらが農地個体群のソースとなっている場合が多い。雑草の農地内外の移動分散や農地周辺域での管理については,これまで農学分野ではほとんど研究対象とはされてこなかった。同種内の農地内(耕地)集団と周辺草地集団との攪乱への反応と生活史の違いは個体群生態学としても興味深い主題を含んでいる。

優先すべき,かつ実効性が高いのは侵入初期段階での啓発と徹底駆除による拡散防止である。メタ個体群を対象とした集落レベルでの総合的管理とそのモニタリングが求められる。それを支援する情報収集・発信システム(警戒情報,雑草生物情報データベース,日本・農地版雑草リスク評価)の構築を開始した。またいくつかの県において,研究者・普及指導員等が連携した地域レベルの分布の可視化が試みられている。これらの試行的活動に対し,行政部局を越えた事業支援を制度化し,研究者・技術者が実行計画に参加することで得られるであろう先行・優良事例のアウトリーチが今後の課題である。また,周辺草地の駆除後の望ましい植生への誘導に対しては,簡易モニタリングによる効果の検証,事例の蓄積が求められる。


日本生態学会