| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


企画集会 T15-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

新たな理論的枠組み「総合的外来種駆除」に向けて

日鷹一雅(愛媛大・農)

外来種に関する対策には、本学会だけでなく多大な投資が行われて久しい。ここでは管理圧の強い里地を題材に、外来種問題にどう取り組むかについて、本集会の演者らの事例も交え、triageとtreatmentを意識した現場対応に結びつく総合的な枠組みについて考察する。外来種へのトリアージについては、55回大会において小池(2008)が身近な天気予報のような外来種の分布拡大予想のための予察システム「外来生物分布拡大予報」構築を提案している。ここでは、疫学の全国展開というよりは、末端医療寄りに実際的な外来種に対してtreatment(治療)を入れた駆除のあり方について、水田生態系を例に試論を行う。この集会の前報告で愛媛県中予地方におけるスクミリンゴガイの総合的駆除の構築を試みたが、このプロジェクトを始めたのは、愛媛県下だけでなく暖地の水田生態系では、トリアージ的に本種が優先するという判断をしたからである。例えば生物多様性えひめ戦略(2012)では本種のリスクについて以下の事由から喚起を促している。 1)分布拡大は止まらない。2)生物多様性(日鷹ら 2007)や栄養塩循環(Carlson et al 2003)への撹乱。3)農業被害は防除圧にかかる経費、労力も含め甚大。4)伝統的な農村や水辺の風景を害する景観有害種(村上・日鷹 2013)。5)「稲守貝」と呼び(宇根 2003)、水田雑草防除手段としての利用意思は絶えない。総合防除は、病害虫に対して社会的に広く認知され、国や国際機関と自治体に予察と防除のシステムが構築され既に半世紀に及ぶ歴史があるが、外来種にはついてはこれからである。IPMの歴史を参考にしながら、地方を主体とした官民も問わない、トリアージの3T(残るはtranport「処理」)のような総合的な駆除システムを発展させることが急務であるが、種や個体群、生物多様性の状況など現場の特性についての整理が肝要である。


日本生態学会