| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


企画集会 T17-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

樹木群集組成を用いた生物多様性モニタリング手法の開発

今井伸夫(京大農森林生態)

生物多様性モニタリングの指標生物には、①高い指標性(種数や組成が他分類群のそれと高い相関)②低い調査コスト③容易な同定④広域かつ長期に繰り返しモニタリングできる、等の要件が求められる。これまで多くの指標種・分類群が提案されてきたが、これらの項目全てを満たすようなものはなかった。リモートセンシングの地上調査と同時に比較的安価に調べられ、かつ森林の構造を直接反映する“樹木群集”は有力な候補分類群である。しかし、樹木群集のどの値(種数、群集組成など)が生物多様性指標として適当なのか分からない、同定が難しい等の問題がある。そこで、樹木群集を用いた効果的なモニタリング手法の開発を目的に、①2つの代表的な指標(種数と群集組成)の指標性評価②同定の負担軽減策の検討(同定する個体の下限直径を上げて(10→20cm)数を減らす、同定時の分類階級を上げる(種→属レベル))を行った。 ボルネオ島内の3つの民間森林管理区(サバ州で2か所、東カリマンタンで1か所)のそれぞれにおいて、原生林~裸地までまんべんなく半径20mの円形プロットを60個設置した。樹種数は、伐採林と原生林で大きな違いはなかった。一方、群集組成の指標(NMDS分析で得られる各プロットの1軸値)は、バイオマスと高い正の相関を示した。森林の劣化とともに増える種群(先駆種)および減る種群(極相種)の両方の効果を取り込んでしまう“種数”よりも、森林劣化に対して線的な反応を示す“群集組成”の方が有効な指標であることが示された。また、下限直径20cm、属レベル同定での調査でも、通常調査(10cm、種レベル)と同様の結果を得られることが分かった。さらに本手法は、通常調査より調査本数を約60%、同定用標本の採取個体数を約98%低減でき、大幅な同定省力化も達成できることが分かった。


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