| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第60回全国大会(2013年3月,静岡) 講演要旨


日本生態学会宮地賞受賞記念講演 3

多様な種間関係が生物多様性を支える

舞木昭彦 (龍谷大学理工学部環境ソリューション工学科)

地球上には多種多様な生き物たちが生息している。しかし、その生物の多様性がどのように維持されているのかは、いまだ解き明かされてない生態学に残された大きな謎の一つである。わたしは、これまで見過ごされてきた「生物種間相互作用の多様性」が生態系を支えるうえで鍵となっている可能性を主張する。

1972年に発表されたロバート・メイ博士の理論によれば、自然界で見られるような複雑な生物群集は維持されにくい。しかし、明らかに現実の生態系では非常に多くの生物種が複雑な相互作用を保ちつつ共存している。この理論と現実のギャップは、その後数10年にわたり生態系の維持の仕組みを解明しようとする膨大な研究の発展へとつながった。食物網の構造を個体群動態の安定性と結び付ける研究がその代表といえる。それらの多くは、メイの理論には仮定されていない現実的なネットワーク構造を考慮することで多種共存を説明しようとするものである。また、近年では食物網研究と同じように、共生関係の群集ネットワークについても盛んに研究され始めている。しかし、複雑な群集が維持されやすいことをはっきりと示す研究はこれまでほとんどない。

従来の研究の共通点は、ある特定の種間相互作用からなる群集に注目している点にある。しかし、自然生態系では多様な生物種が存在するだけではなく、それらの生物種の間に多様な関係が成り立っている。人間社会でもそうであるように、敵対・競争・協力関係が自然生態系の中にも存在し、それらは一つの群集内で混在一体となっている。わたしは、そうした多様な種間相互作用が群集の維持とどのような関係にあるのかを数理モデルにより解析した。主に2つのことがわかった。[1] 群集内で異なる相互作用タイプが偏りなく混ざっていることで群集は維持されやすい [2] 異なる相互作用タイプが偏りなく混ざっていると、種数が多くかつ関係を結んでいる種ペアの数が多いほど、つまり複雑な群集ほど、維持されやすくなる。これらの結果は、「多様な生物種と同時に多様な種間関係が存在してこそ、生態系が支えられる」ことを意味しており、生物多様性それ自体の持つ性質が、自身を支える鍵となっていることを示唆している。この成果から生態学に新しい視点を提供できればと思う。

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