| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | | 日本生態学会第60回全国大会(2013年3月,静岡) 講演要旨 |
日本生態学会大島賞受賞記念講演 2
共生は,本質的にはプラス−プラスの関係である。しかし,共生関係の構築には,一方の(あるいは両方の)パートナーに制約が生じるために,系統的に近縁の関係にありながら,あるものは共生関係を結び,あるものは共生しないという多様性が多くの生物群で見られる。
アブラムシは,植物の篩管液を吸汁する植食性昆虫であり,一定時間の吸汁後,お尻から「甘露 (Honeydew)」という液体状の排泄物を出す。甘露には糖やアミノ酸が含まれており,周囲の昆虫を引きつける蜜のような役割を示す。アリは,甘露を目当てにアブラムシのコロニーを訪れ,アブラムシのお尻から直接採餌したり,または葉に落ちたものをなめたりする。アリがアブラムシの周囲にいると,テントウムシなどのアブラムシの捕食者は撃退され,アリはアブラムシのボディーガードのような役割を担っている。
アリは優秀なボディーガードであるが,アブラムシの仲間でアリと共生する種は意外に少ないことが報告されている。アブラムシがアリをボディーガードとして雇うには,いくつかのハードルを越えなければならないからである。そのハードルの一つに,アリと共生すると,アブラムシの体サイズや胚子数が減少するという「アリ随伴のコスト」が挙げられる。さらにアリ随伴のコストが生じる生理的要因として,随伴アリがいるとき・いないときで,アブラムシの甘露排出行動と甘露内化学成分が可塑的に変化することも明らかになってきた。
本講演では,北海道石狩市の海岸草原に分布するカシワ上で見られるTuberculatus quercicola(カシワホシブチアブラムシ)と随伴アリのFormica yessensis(エゾアカヤマアリ)の共生関係に焦点を当て,野外操作実験に基づいたアリ随伴のコストとベネフィットそして甘露分析について説明する。
アリ随伴のコストの発見は,なぜアリと共生するアブラムシは少ないのか?という問いに対する一つの答えとなり得るだろう。さらにアリは形態形質だけではなく,アブラムシの移動・分散にも影響を与え,その結果としてアリと共生するアブラムシの集団遺伝構造はメタ個体群的な特徴を示すことが最近明らかになった。アリと共生するアブラムシと,アリに頼らないアブラムシのそれぞれの生き方を探索することは,多くの生物で見られる共生関係の深遠な理解につながっていくだろう。