| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) E1-15 (Oral presentation)

日本産DesmostylusPaleoparadoxiaの堆積環境に見られる生息地戦略

*松井久美子(京大・理 ),指田勝男(筑波大・生命環境),上松佐知子(筑波大・生命環境),甲能直樹(科博)

束柱目のDesmostylusPaleoparadoxiaは,前期中新世から後期中新世最初期にかけて環太平洋北部地域に生息していた海棲哺乳類である.目レベルで絶滅した束柱目は現生に近縁な動物がおらず,その生態,特に生息域については陸上棲,半水棲,深海まで進出していたなど諸説あるが,そのコンセンサスは得られていない.DesmostylusPaleoparadoxiaは生息していた時代と地域がほぼ同じであるにも関わらず,同一層準からの共産事例がほとんど無く,この2属の生息域は異なっていたと推測されている.そこで2属の生息域を推定するため,化石産出層準の堆積環境,特に古水深に着目し,軟体動物化石・底棲有孔虫化石を指標としてそれぞれの堆積時の古水深の推定を試みた.

日本およびサハリンから産出した標本のうち,産出層準および現在の所在が明らかで,誘導化石・二次化石の可能性が低いDesmostylus29点およびPaleoparadoxia27点について地質調査,標本調査,文献調査をもとに古水深を推定した結果,Desmostylusが1地点を除き浅い海(30 m以浅)に限定され,Paleoparadoxiaが浅い海から比較的深い海(0–500 m)で堆積した傾向が明らかになった.このことから,両者は利用する海域で棲み分けをした可能性が強く示唆された.今回の地層の堆積深度の推定は普遍的な根拠に基づいており,骨組織をもとにDesmostylusが深海棲, Paleoparadoxiaが浅海棲であるとした研究はそうした堆積学的事実とは相反している.本研究の結果はこの絶滅したグループが現生種には見られないような例外的生理生態を持っていたかも知れないということも暗示している点で,重要な知見をもたらす.


日本生態学会