| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-093 (Poster presentation)

スダジイタマバエの生態特性と地理的分布および伊豆諸島南部における大発生

*徳田 誠,川内孝太(佐賀大・農)

近年,伊豆諸島でスダジイの花序(果序)に虫えいを形成するタマバエの一種,スダジイタマバエが確認された.本種は1980年に沖縄本島で発見されて以降,30年近く追加の確認記録がなかったが,最近になって,九州南部や種子島にも分布することが明らかになった.本種に寄生された花序はゴール化し,種子が形成されなくなる.スダジイは伊豆諸島に自生する唯一のブナ科植物であり,種子生産の減少は,ドングリを利用する様々な生物に影響を及ぼす可能性がある.そこで本研究では,スダジイタマバエの分類学的地位と生態特性を調査し,各島における分布と密度を明らかにすることを目的とした.本種の終齢幼虫および成虫形態を観察した結果,タマバエ科ニセハリオタマバエ亜族に属することが判明した.生態特性の調査から,本種の成虫は春に羽化してスダジイの雌花序に産卵すること,幼虫は,夏の間1齢のまま虫えい内で過ごし,秋に発育して終齢となり,冬に虫えいから脱出することが明らかになった.伊豆半島および伊豆大島から青ヶ島にかけて本種の分布状況を調査した結果,本種は伊豆半島や大島,利島では確認されなかったが,新島以南の有人島ではいずれも確認された.とくに伊豆諸島南部の三宅島から青ヶ島にかけては非常に高密度で発生しており,島によってはドングリがまったく形成されない状態が少なくとも数年間は継続していると考えられた.九州産と伊豆諸島産の個体群を対象にミトコンドリアDNA COI領域の部分塩基配列を比較した結果,伊豆諸島から複数のハプロタイプが確認され,さらに,九州と伊豆諸島に分布しているタマバエでは,複数の塩基置換が確認された.したがって,本種は近年九州や沖縄から侵入したものではなく,比較的古くから伊豆諸島に分布していたものと推察された.


日本生態学会