| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


シンポジウム S16-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

生物多様性の歴史的背景の解明と人口減少社会における保全施策

深澤圭太(国立環境研)

日本社会は人口減少時代に突入している。近い将来には都市への人口の集中も相まって農村地域における人口減少・無人化が急速に進行することが予測されている。そのため国土計画においては、限られた人的資源の元でどのように里地里山の生物多様性を保全するか、無人化が避けられない場所における将来の目標生態系をどのように設定するかが重要な課題になると考えられる。そこでは、長期的視野に立った政策、経済、人材育成が求められるのと同時に、自然に対する人間の働きかけの変化に対する生態系の長期的な応答を明らかにするために、生態学にもとづいた科学的な知見の深化も必要とされる。しかし、生態系の長期応答は実験が難しい。そのため歴史的な人間活動とその結果として成立した生物相の関係を定量的に把握・分析することで、人間活動の影響が持続する時間スケールを推測するアプローチは、最も有効で強力な実証的方法の一つであるといえる。このような研究を行うには、考古学と生態学の空間情報を統合する統計モデリングと、分野をまたいだ研究者間の協働のもとに、過去の人間活動と生物応答の両面で統一的・総合的な仮説の構築を行う必要がある。本講演では、遺跡データベースから得た過去の人間活動の分布で哺乳類の現在の分布の説明を試みた研究を紹介し、人間活動の影響は数百年~千年以上にわたって生物に影響をおよぼす可能性があることを示す。これらの結果をもとに、今後、人間活動が減少する里地里山地域における保全をどのように考える必要があるかについて議論する。また、今後の計画として、過去に無人化した集落の現状を把握し、無人化の長期影響を直接測定するための研究アプローチを紹介する。


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