| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
企画集会 T01-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
1970年代、Robert Mayが「複雑な生態系は維持されにくい」と予測したことをきっかけに、生物群集を維持する鍵となる仕組みを探す大きな研究の流れができた。その主要なアプローチのひとつは、種間相互作用のネットワーク構造と個体群動態を結び付けることであった。なぜなら、Mayの理論は単純かつでたらめな相互作用ネットワーク構造を仮定しており、このことは現実には秩序あるネットワーク構造があり、それが安定性と結びついていることを示唆したからである。食物網研究がその中心にあり、相互作用強度やトポロジーに注目したもの、相互作用の種類に注目したものなど多岐にわたるが、いずれも「ネットワーク構造と安定性」の関係に注目したものとしてまとめられる。しかし、ネットワーク構造は時とともに変化するだろうし、空間スケールによっても異なると思われる。さらには実証データの少なさもあって自然群集に安定性の鍵となる普遍的なネットワーク構造があるとは信じにくい。本講演では、多種系において軽視されてきた空間を群集安定性の新たな仕組みとして提案する。従来の単純な系を扱ったメタ個体群理論で予測されるような空間異質性と適度な移動分散さえあれば、多種の共存が可能であること、さらには、複雑な群集ほど系の安定性が高まる、つまり正の複雑性-安定性関係が生じることがわかった。この理論は、従来考慮してきた何らかの現実的なネットワーク構造を仮定していないため、ネットワーク構造に依存しない安定性メカニズムであると期待される。