| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T03-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

小バチは開花前からやってくる ~先入観を捨てた観察の重要性~

*山路風太, 朝川毅守 (千葉大院・理・生物)

昆虫が花を訪れるのは一般的には花が完全に開いてからである。しかし昆虫の中にはそれより前、花が開花し始めた瞬間に中に潜り込み、受粉の手助けをするものも存在する。

本研究で用いるキツネノカミソリは、送粉シンドロームからはアゲハチョウの仲間による送粉が示唆される。しかしKawano. 2009では、small beeと記載された小バチなど、異なる昆虫が訪花すると報告されている。各々の訪花頻度なども不明なことから、キツネノカミソリの送粉系について更なる調査が必要だと考え、訪花昆虫観察や袋かけ実験などを行い検証してきた。

千葉県の泉自然公園において訪花昆虫観察を行った結果、ニッポンチビコハナバチという体長5mm程度の小バチが最も多く訪花したが、一方でアゲハチョウの仲間はほとんど花を訪れなかった。また観察中、開花を開始した直後の「開花前」の花に小バチが侵入する様子が見られた。

一般に小型の昆虫は花粉輸送効率が高くないといわれている。キツネノカミソリは開花が完了すると葯と柱頭との間に一定の距離が生まれ、ニッポンチビコハナバチのような小型の昆虫が送粉するのは困難になると考えられる。しかし「開花前」の段階では葯と柱頭との間の距離が近いため、小バチにも送粉が容易に行えると考え、泉自然公園において袋かけ・籠かけ実験を行い検証した。その結果、両実験ともに結実し、「開花前」における花粉媒介、すなわち「開花前受粉」が行われていることが確認された。複数の集団で観察した結果、共通して「開花前」への侵入が見られたことから、「開花前受粉」はキツネノカミソリにおいて主要な送粉様式であると考えられる。

また変種であるオオキツネノカミソリでは一転してアゲハチョウの仲間が最も多く花を訪れることも明らかになり、今後は変種間での比較なども行う予定である。


日本生態学会