| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T03-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

感覚の拡張によって観察される相互作用:ハイスピードカメラ撮影で示 されたクサギにおける訪花と送粉の差

*坂本亮太 (滋賀県立八幡高等学校)

これまで,様々な生物間相互作用が観察をもとに明らかにされてきた。その結果我々は,五感を駆使することによって,生物現象の一部を理解することに成功してきた。その中には,紫外線を見る・超音波を聴くといった,ヒトの感覚器官を拡張することで観察現象を広げた例が数多く存在する。

特に送粉研究においては,昆虫などの動物と植物との相互作用を取り扱う。それゆえ観察対象によっては,動植物どちらにも対応できる感覚器官が必要である。本研究ではシソ科のクサギとその送粉昆虫を材料に,それぞれが感じているであろう異なる時間スケールに注目し観察を行った。送粉昆虫の素早い行動を対象にしたハイスピードカメラ観察と,クサギの年間を通じた種子生産量の明らかにすることにより,観察しているだけでは見過ごされがちであった相互作用について考察を行った。

ハイスピードカメラを用い,主な送粉昆虫であるホウジャク,クマバチ,アゲハチョウの訪花行動を観察した結果,1回の訪花行動に内在されていた柱頭や葯への接触,つまり「複数回の送粉行動」を解析することができた。訪花1回あたりの接触回数は送粉者の種類により異なり,「訪花」と「送粉」の関係はそれぞれで独立であると示された。例えば時間当たりの訪花回数が最も多いホウジャクでは,訪花1回あたりの接触回数が少なく,かつ,それら数少ない接触も,花粉が付着していない翅部によるものだと示された。その一方で,時間当たりの訪花回数の少ないクマバチやアゲハによる接触回数は有意に多く,これらの訪花を実験的に排除すると,年間の種子生産量が減少することが明らかになった。

本研究は,適切な道具を用いてヒトの感覚を拡張すれば,観察は興味深い生物現象を示し続けられることを示唆している。


日本生態学会