| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
企画集会 T04-4 (Lecture in Symposium/Workshop)
微量DNA分析には、劣化して微量になったゲノムDNAを解析するものと、無傷だが微量なゲノムDNAを解析するものの2通りがある。前者の例が、湖底堆積物中の生物遺骸から塩基配列を得る試みである。Ishida et al. (2012)は50年以上前の湖沼堆積物層から採集したミジンコの休眠卵を包む卵鞘の遺伝子を解析することに成功した。卵鞘は母親由来の死んだ細胞により構成され、時間とともに細胞中のゲノムDNAは劣化する。長いDNA断片は断片化されやすいが、短いDNA断片(200bp以下)は断片化されにくい。そこで堆積物中の卵鞘の短い塩基配列を効率的に解析する手法を開発した。過去の湖沼環境の変化を復元する上で堆積物中の休眠卵の遺伝子解析は有用である。しかし休眠卵のほとんどが孵化してしまい、堆積物中からは卵鞘しか見つからない湖沼も多い。劣化した生物遺骸にすぎない卵鞘でも、微量DNA分析を駆使すれば、湖沼環境の変化の復元に貢献できる。
後者の例が、演者らによる淡水寄生性ツボカビの多様性解析である。植物プランクトンに寄生するツボカビ類は淡水生態系の食物網の研究において注目が集まっているものの、その多様性はよくわかっていない。湖水中の環境DNAの解析から、ツボカビ門に属する多数の系統の塩基配列が決定されているが、それらのほとんどが既知種の塩基配列と大きく異なっているため、塩基配列を決定できても、それが寄生性かどうかの見当もつけられない。そこで、ツボカビの胞子体(直径数μm)1個が寄生した珪藻の1細胞あるいは1コロニーからツボカビの遺伝子のみを解析する手法を開発した。光学顕微鏡下での寄生性ツボカビの種同定が不可能なため、この微量DNA分析の手法はツボカビの種系統と宿主との関係を個々に把握するのに不可欠になる。