| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
企画集会 T06-1 (Lecture in Symposium/Workshop)
福島第一原子力発電所事故により、環境中に拡散した放射性セシウムがどのような化学形態であるのかは、移行量を評価するための重要な基礎情報である。例えば、河川を通じた放射性セシウムが、粒子態として移行するのか、それとも溶存態として移行してくのかで生態系に蓄積していく放射性セシウム量の評価が変わる可能性がある。
我々はこれまでに、大気エアロゾル、土壌、河川水、河川懸濁粒子、河床堆積物などの様々な環境試料を採取し分析を行ってきた。その結果、陸上に沈着した放射性セシウムは表層5 cmの土壌中に留まっていることがわかった。これは、放射性セシウムが土壌中に含まれる粘土鉱物に強く吸着したためであると考えられる。土壌粒子に一旦吸着した放射性セシウムは水に殆ど溶出しないことが実験的に確かめられた。したがって、このような粒子が侵食により河川に流入すれば、河川を移行する放射性セシウムは粒子態であることが容易に想像できる。実際に、福島において河川水を採取し、溶存態(ここでは0.45 μm以下)と粒子態とに分離して分析を行うと、70%以上の放射性セシウムが粒子態であった。ただし、溶存態及び粒子態の放射性セシウムの割合は河川水中の粒子量に依存(例えば平静時であるか降雨イベント時やイベント後であるかで変化)するため、単純な量比の比較には注意を要する。また、河口域では溶存態の割合が増加する傾向が認められ、河口域での塩濃度の上昇により粒子から放射性セシウムが脱着している可能性が示唆された。少なくとも10%前後の放射性セシウムが溶存態で存在していた観測事実は、生体への取り込み量の評価において重要な知見であると言える。しかし一方で、粒子態でも0.1 mm以下の小さな粒子は浮遊状態で運搬されやすいので魚類などの大型生物が直接体内に取り込むことも考慮すべき過程であると考えられる。