| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
企画集会 T06-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
東京電力福島第1原発事故によって飛散し、陸域へ大量に沈着した放射性Csに対して、ヒトの健康や生態系への影響の観点から、土壌における蓄積や動態に関する詳細な情報が求められている。特に、広大な面積を有する森林域については、全域に亘った根本的な除染作業が困難なことから、森林土壌への蓄積状態や、木本類やキノコ等の特用林産物への移行特性等、生態系内での挙動と、降雨出水時を主とする系外への流出特性を明らかにすることは、効率的かつ効果的な除染や下流域の再汚染対策を進めるために不可欠な知見となっている。
本研究では、事故後から現在に至るまでの森林域における放射性Csの動態を解明することを目的に、異なる汚染レベルを有する森林域(茨城県筑波山と福島県宇多川上流域)を対象として、雨水やリターフォールを介した流入調査や土壌蓄積調査等から、生態系内への蓄積状態の推移の把握を、水文連続観測と降雨出水時の連続採水調査等から、流出特性の把握を行っている。これまでに得られた主な知見として、土壌への蓄積状況は、事故後2年余り経過しても、いずれの森林域においてリター層と土壌表層5cm深までに、Cs137全蓄積量の9割が存在していた。また、リター層から表層土壌への移動量は、樹種やリターの堆積状態に依存することが示唆された。森林域からのCs137の流出は、主に浮遊性土砂に付着した形態で生じており、このため流出量は、降雨規模に強く依存する状態にある。また、浮遊性土砂の分級試験等から、無機微細土粒子だけでなく、粒状態有機物(植物遺骸)も流出に寄与していることが示唆された。一方で、流出率については、汚染レベルに関わらず、沈着量に比べて年間当たり0.1パーセントオーダーであり、極めて限定的な状況にあることが確認された。