| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T06-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

河川・湖沼生態系の放射性物質の汚染と移動

野原精一(国立環境研究所)

2011年3月に発生した福島第一原子力発電所事故により、原発から190 kmはなれた群馬県赤城大沼にも放射性物質が降下した。その後、魚類等から基準値を超える放射性Cs(640 Bq/kg)が2011年8月に検出された。ワカサギの放射性Csはその後徐々に減少し、2012年8月には210 Bq/kg、2013年8月には130 Bq/kg、そして2013年11月には120 Bq/kgとなった。放射性Cs濃度は徐々に下がったが湖沼循環期にやや上昇した。植物プランクトンや沈殿物の放射性Csは昜分解の画分が多く溶存態への変化が無視できない。風波による底泥再懸濁、台風時の懸濁物質流入、底泥からの溶出などで閉鎖性の強い大沼のワカサギの放射性Cs濃度は現在平衡状態にある。

赤城大沼の底泥の放射性Cs堆積は湖心の底泥に比べて沿岸で少なく、分布偏りが見られた。原因として集水域での偏りを仮定し、空間線量測定と流路図の作成を行った。集水域と仮想の表層流路図上には、ホットスポットが認められた。当時の積雪の状態や風向きによる放射性Csが偏って蓄積し、その下流に流路に沿って流れ込んだものと推定された。今後原因解明からその具体的な対策への研究が重要である。

福島県浜通地方における4河川(宇多川、真野川、新田川、太田川)で、2年に渡る放射性Cs流出量と堆積場所の検索、水生動植物への移行について調査を行った。春先の雪解け時や台風による洪水時には多量の懸濁物質(2g/L)が流出し、ヨシ帯などの湿地に蓄積した。その懸濁物質は松川浦などの浅海域や干潟の奥に蓄積して、底に生息する雑食性の水生動物を汚染していた。汽水域では流出した懸濁物の一部が浸水域のヨシ帯に堆積し、潮汐流や風波によって河床から再懸濁、再浮上した。UAVによる空間線量観測によって詳細な汚染マップを作成し、河口閉塞した新田川の淡水化した河口域への二次的なCs蓄積が顕著であった。


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