| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
企画集会 T07-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
シヘンチュウ科Mermithidaeは、比較的大型の線虫類で自然界で肉眼レベルで目立つ存在である。昆虫類への寄生事例が知られ、自由生活期間が長期にわたる特異的な生活環が知られている。1950年代の農村地帯に設置された害虫発生予察灯の水盤に、誘殺昆虫から脱出したシヘンチュウが大量沈殿するという観察記録が残されている(高木 1976)。今回題材とした稲の害虫類に寄生する Agamermis属は広く知られており、とくにウンカシヘンチュウ Agamermis unka は、その記録が1世紀を遡り、古くから有力な天敵として注目されていた(江崎ら 1932)。農業現場で天敵活用を図るには、一つには天敵種の生活史解明が肝要であるが、本種については生活環の記述が戦前に報じられ(Kaburaki & Imamura 1932)、その後Kuno(1968)まで報告が途絶え、農薬万能時代の中で幻の天敵とされていたようである(日鷹 1990)。再認識は、無農薬や総合防除を継続した水田に特異的に、本種が高密度に生息しウンカ類への高率寄生が報告されてからである(Hidaka 1993)が、高寄生率の機序は未知な点が多い。また人工培養による天敵利用に向かないため、本種の基礎研究は停滞中で、一時期韓国で研究されたが、近年報告は途絶えた。本報告では、本種の移住性など生活史戦略と水田栽培環境、寄主の多様性と個体群動態との関連性から、高い寄生率の謎を考察する。最近、農業と生物多様性の親密な関係が取り上げられ、本種個体群の動向が気にかかるが、以前のように確認できないとする情報が多い。本種のような土着天敵について、里山の生物多様性管理の中で位置づけし、アキアカネやタガメのような水田依存種と同様に、保全する動きは今の所ない。有用天敵を滋養し害虫発生リスクを減らすことは、ただの虫の保全を勧める現場の合理性につながらないであろうか。