| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T08-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

台風撹乱が葉形質の変化を介して被食に与える影響

中村誠宏(北大・北方生物圏FSC),田中幹展(北大院・環境)

稀に起こる大規模な自然撹乱は生態系機能や生物間相互作用に大きな変化をもたらす。2004年に北海道北部の森林を通過した大型台風18号により、山間部を優占するダケカンバ林は、大量の葉群が吹き飛ばされ枝が折れるなど大きな物理的撹乱を受けた。植物—昆虫の相互作用の分野では、植物はストレスや撹乱を受けると誘導防御や補償成長の応答を介して、その後の植食性昆虫からの被食の受けやすさが変わることが知られている。また、植物の生長と防御形質の間には同じ光合成産物を資源として利用しているためトレード・オフ関係が見られることがある。しかし、ストレスや小さな撹乱に比べて、大規模な撹乱に対するそれら応答は未だ解明されていない部分が多い。

本研究では、大型台風を模倣した操作実験をダケカンバ若齢林で行い、台風による物理的撹乱が、1)カンバ葉の防御形質(LMA、フェノール、タンニン、CN比)、2)被食、そして3)カンバ生長(葉生産)に与える影響の解明を目指した。さらに、カンバの生長と防御形質の間にトレード・オフ関係が生じているのか、それら生態的特性はどのような回復過程をたどるのか、についても解明を試みた。

撹乱後1年目には撹乱区の葉はLMAを増加させ縮合タンニンを減少させていたが、総フェノール、CN比には影響を与えなかった。被食は撹乱後1年目には撹乱区でより増加したが、2年目には対照区と同程度にまで戻った。しかし、葉生産は撹乱後1年目も2年目も増加したままで、この2年間では対照区と同程度にまでは回復しなかった。一方、カンバの生長と防御形質の関係を見ると、葉生産とLMAの間には負の相関が見られたが、葉生産と縮合タンニンの間または葉生産とCN比の間には正の相関が見られ、トレード・オフ関係では説明できず、その他の要因が関連している可能性が示唆された。


日本生態学会