| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T08-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

撹乱が生態系に与える影響のモデリングに向けて

横澤正幸(静岡大学・工)

自然環境や人間活動による撹乱が生態系に及ぼす影響に関する研究の重要性は近年とくに高まっており、モデルを利用した定量的影響評価、回復過程の解明ならびに緩和策の提案などが行われている。その際、撹乱が生態系に与える影響のモデリングでは、攪乱に伴う構造と機能の変化プロセスの理解を踏まえる必要がある。具体的には、攪乱の強さと撹乱・回復前後において急に変化する生態系パラメータの把握とそれに基づいたモデリングが重要であろう。

Ito (2010)は高山落葉広葉樹林を対象として、2004年に襲来した台風がその林分の炭素収支へ与えた影響を評価した。炭素収支に関するモデル推定値と観測値を比較し、それらの差をモンテカルロ法により適合させることで台風による落葉率を推定し、台風の強風によって生じた落葉・落枝が炭素収支に与える影響を定量的に評価した。また、エピソディックな撹乱を扱ったものではないが、Sakurai et al. (2011)は農耕地土壌の炭素量が栽培管理条件によって変化する様子を、有機炭素の分解率の温度依存性パラメータが時間変化するモデルによって記述した。その際、土壌炭素量の経年変化データに適合するようにパラメータの時間変化を粒子フィルター法で推定した手法も参考になるだろう。さらに、Scheffer et al. (2011)は撹乱に対する生態系全体の応答に関して、系の崩壊あるいは別な状態へ遷移する閾値であるティッピングポイントという概念に基づいて調べている。まだ定量的な理解や予測性についての情報は少ないが、レジリエンスの概念とともに興味深い視点を提案している。

話題提供では、生態系レベルでの攪乱応答のモデリングについていくつかの研究例を紹介するとともに今後の方向性と課題を議論したい。


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