| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T09-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

大浦湾・辺野古の生物多様性を育むもの

*渡邊謙太(沖縄高専),小渕正美(黒潮生物研究所)

沖縄島北部東海岸に位置する大浦湾・辺野古沿岸は、米軍普天間基地の移設先として、現在、埋立ての危機にさらされている海域であり、この問題により全国的な知名度を得ることになった。一方で、この海域に見られる高い生物多様性や独特な地形条件については、十分に認知されているとは言えない。沿岸部約15kmに渡るこの海域は、決して広くはないが、自然度の高い多様な環境が入り組んで存在する。そこには北限のジュゴン個体群が採餌に訪れ、世界有数の大きさを誇るアオサンゴ群体が存在している。近年実施された種々の調査により、この海域が、多数の未記録種、未記載種を含む、非常に多様な生物相を有することが明らかになった。大浦湾には国内では極めて珍しい水深30mを超える礁池が存在するが、この海域の高い生物多様性の背景には、環境の連続性に加えて、この地形的特徴が大きく寄与していると考えられる。このような大浦湾・辺野古の自然は、基地移転という問題を抜きにしても十分に注目すべきものであり、我々に多くの興味深い研究テーマを提供している。

一方、大浦湾・辺野古沿岸に暮らす人々は、これらの自然から恵みを受けて生活してきた。しかし、伝統的な自然との関係が急速に薄れつつある現在、地域の自然に対する価値観や理解をあらためて見つめる必要性は大きい。現在この地域では、地元の博物館や学校、ダイビングチームなどにより、地域の自然を教材とした、市民や学生向けの環境教育が実施されており、一定の成果を生みだしている。

本発表では、大浦湾・辺野古の生物多様性を育む環境の多様性、生態系の連続性を紹介し、次いで、地域の自然の価値を理解し、有効に活用し、健全な状態で次世代へ受け継ぐために、生物学研究・教育に携わる者が果たすべき役割について若干の考察を加え、助言を仰ぎたい。


日本生態学会