| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T10-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

ヒグマにみる採餌行動の雌雄差

小林喬子(東京農工大)

これまで哺乳類の食性研究は、そのアプローチの難しさから多くの場合糞などの痕跡を中心とした不特定のサンプルを基に行われてきた。しかし、雌雄では行動圏の大きさや繁殖戦略が異なるため採餌行動に差異がみられることが考えられる。

そこで本研究では、個体レベルでのヒグマの食性に着目し雌雄の違いを実証データとして示した。ヒグマはオスの方が体サイズが大きいため、メスよりも高質な資源が必要であるとされる。また、行動圏はメスが狭い範囲を保守的に利用するのに対してオスは広い範囲を移動する。これらの特性がヒグマの食性の雌雄差に与える影響について考察した。ヒグマはこれまで植物質を中心とした雑食性であったが、1990年代に個体数が急増したエゾシカを新たなエサ資源として開拓した。植物よりも高質な資源であるエゾシカの利用を雌雄別にみてみると、オスの方がメスよりもエゾシカを利用する個体が多かった。これは、体サイズが大きいオスがその体を維持するためにより高質な資源を選択的に利用していること、行動圏が広いため植物よりもまばらに点在しているエゾシカに遭遇しやすく利用頻度が高まることが影響していると考えられた。また、性的二型を示す種においてオスは体サイズが大きいほど繁殖に有利であるとされるが、実際にエゾシカを利用している個体ほど成長が促進され体サイズが大きくなるという結果が得られたことから、高質な資源を選択的に利用することで繁殖にプラスの影響を与えていることが示唆された。

哺乳類は出産・子育てなど繁殖に多くのエネルギーを費やすメスと繁殖相手を見つけるのにエネルギーを費やすオスで繁殖戦略に大きな違いがみられるため、今後性差を考慮した研究がより進んでいくことが期待される。


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