| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
企画集会 T13-1 (Lecture in Symposium/Workshop)
私たちが収集するデータは自然界の現象を正しく示しているとは限らない。たとえば第t年の昆虫個体数Dtを観測したとき,その変動は第t年の真の個体数μtの変動とは隔たった変動になっているかもしれない。そのような可能性を考慮すれば,個体数変動のモデルを(1)真の個体数の変動を記述する式と(2)観測された個体数と真の個体数の間の関係を記述する式の2群に分離して考える方がよいであろう。前者は状態方程式(あるいは遷移方程式,システムモデル,プロセスモデル)と呼ばれ,後者は観測方程式(あるいは測定方程式,データモデル)と呼ばれ,両者を合わせたものは状態空間モデルと呼ばれる。このモデルは観測値に付随する誤差変動を処理するという実務的な意味で使用されることが多いが,場合によっては自然現象の見方を変える影響力も持っているであろう。1950年代の「密度調節論争」おいて,Nicholson (1954) は生物の個体数は密度依存的に制御されていると主張し,Andrewartha and Birch (1954) は密度依存的な制御は意味をもたず,気候などの環境条件が好適かどうかで個体数が決まっていると主張した。状態空間モデルを用いれば,この両陣営は同じモデルの別側面をいずれも正しく主張していたことを理解することができる (Yamamura et al. 2006)。具体的に状態空間モデルの推定を行う際には,真の個体数はさまざまな値を取る可能性があるので,それらの可能性をすべて積分して推定を行う必要がある。誤差に正規分布を仮定する場合には,この積分の解は解析的に与えられるため単純な行列計算で推定を行うことができ,この計算方式はカルマンフィルターと呼ばれている。積分が簡単に求まらない場合には,最尤推定の近似計算としてのベイズ推定などが有効であろう。