| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T13-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

ニホンジカの個体群動態の推定

飯島勇人(山梨県森林研)

近年、世界的に大型草食動物、特にシカ類の個体数が増加し、増加したシカ類の摂食が森林や草原、湿地、高山などの生態系に与える影響が危惧されている。シカ類の管理には、シカの個体群動態を明らかにする必要がある。しかし、シカ類の個体数を広域で直接観測することは現実的に不可能であり、シカの個体数に関連する観測データから、直接は観測できないシカ類の個体群動態を推定する方法を開発する必要がある。本発表では、シカの個体数と関連する観測データとして、狩猟者の報告による目撃効率(シカ目撃数/出猟人日、以下SPUE)、専門の調査者から得られた糞塊密度(糞塊数/踏査距離)および発見密度(シカ目撃数/踏査面積)、山梨県が集計した捕獲数を用い、5 x 5 kmメッシュスケールで2005年から2011年までの山梨県のニホンジカの個体群動態を推定した事例を紹介する。構築した状態空間モデルのうち、データモデル(観測に関するモデル)は、推定するシカ個体数がSPUE、糞塊密度、シカ発見効率と比例関係にあるとした。また、捕獲数は、シカ個体数がある捕獲率で捕獲された結果得られるものとした。システムモデル(観測できない個体群動態に関するモデル)は、シカ個体数がある捕獲率によって捕獲され、場所に固有な個体群増加率で増加して翌年のシカ個体数となるとした。個体群増加率については、メッシュの森林率、常緑樹林率、人工草地率に影響を受けるとした。また、初年度のあるメッシュの個体数は周囲の隣接するメッシュの個体数と類似していると仮定した。推定した結果、5 x 5 kmメッシュかつ年ごとのシカ個体数を推定することができ、この個体数はシカ個体数に関連した観測値と比例関係にあったが、糞塊密度との関係が最も強かった。また、個体群増加率は人工草地率が高いほど高かった。ニホンジカの個体数を減少させるためには、30%以上の捕獲率が必要であることが明らかになった。


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